1985年7月、紫陽社から刊行された内野潤子(1928~)のエッセイ集。装幀は芦澤泰偉。著者は歌人。小説家・山手樹一郎の娘、井口朝生の妹、詩人・井坂洋子の母。
手品師の黒いマントからは、花や白い鳩が飛び出して人の心を和ませてくれる。私の高校マントには、不毛の土地グリーンランドが包まれていた。写真を写す時も、人の後ろに立って写すのが好きで、またそれが最も自分らしく心のやすまる場所である私が、このような本を出すことに場違いな思いがないこともない。ものを書くことを生業とする家族に囲まれて、長年続けた短歌には言い尽せなかった思いを綴ってみた。大半は季刊誌「柿の葉」にのせていただき、何篇かは、私の所属している短歌誌「長流」にのせていただいたものである。
子供達も成人して、みんな仲間になってしまい、原稿用紙に向かう私に、声援を送ってくれた。花束のようにたくさんの友人に恵まれて、後ろから背中を押してくれたので、恥かしがらずに、こういうものが書けたのだとありがたく思っている。私達の世代は、まだ女の人がものを書くことには、一種の躊躇のようなものが残っている。自分でもとても一冊になるほど書けるかどうか自信がなかった。私のようなものに、書く場所を与えて引き上げて下さったのは、ひとえに若い荒川洋治さんのお力添えによるものである。いまその幸せをしみじみかみしめている。
(「あとがき」より
目次
- 高校マントのグリーンランド
- 牛乳配達人
- ロングロングアゴー
- アルバイト
- 歌会私考
- 槌の音
- ペンテックス
- 牧師の妻
- 入学試験
- 放課後
- 逢いびき
- 靴
- コロッケ
- グリーンピース
- お弁当箱
- 三人官女
- 蒲団の山
- 風呂敷
- 雷恐怖症
- ほくろ
- 烏瓜
- 美しい帽子
- 宿り木
- 思春期
- 霜焼け
- 母の連想
- 漱石のジャム・その他
- 精進揚げ
- ぎんやんま
- 美談
- 「にしむくさむらい」の世界
- 方言
- 小菊
- 手紙
- 失踪
- 手
あとがき
NDLで検索
Amazonで検索
日本の古本屋で検索
ヤフオクで検索