2005年11月、土曜美術社出版販売から刊行された西岡光秋(1934~2016)のエッセイ集。装画は河原宏治、装幀は直井和夫。著者は大阪市生まれ。刊行時の住所は練馬区東大泉。
長年、詩に関わりのある文章を書きつづけていると、詩に関する様々な問題に直面する。そのつど、私自身の詩を中心とする思考過程を解明することに腐心してきた。無論、一作ごとの詩論・エッセーの投げかけてきた課題は、私の精神の内面に広い意味における詩の文様の浮上をもたらした。その文様を解きほぐす作業は孤独な時間との勝負であったが、この時間の共有と遊んだ幾年かは、いま振り返ってもきわめて辛く、そしてまた愉しみでもあった。
本書を編む前に、小説論、芸術論など、文学全般についての評論・エッセー集を企画し、発表誌等を取り揃えたが、これら評論等については、後日の機会に譲ることとし、とりあえず、私の文学観を基底とした詩観、人生観を中心に据えた詩論・エッセー集として本書を上梓することとしたものである。
本書は、Ⅰ章に詩および短歌俳句等に関する詩論を中心に編んだ。Ⅱ章は、主として諸雑誌、新聞等に発表した文学をめぐる視点から拾い上げたエピソード等を集めた短文を中心に構成した。初出一覧を見ていただけるとわかるように、発表の時期はかなり長期にわたっている。
なお、文中、引用文等における旧漢字は新漢字に改めた。旧かなづかいは原文のままとした。
平成十六年の一月半ば、七十歳の声をきいて間もなくのこと、病知らずの頑健さを誇っていた私も、人並みに大病に見舞われた。幸い病後の経過も良く、一年後の今日、元の体にかえった。しかし、予想もしなかっただけに、人間の身体の微妙な変節を如実に知らされるとともに、生命の有限は歳月を待ってはくれないことをも思い知らされた。本書は、精神と身体の平衡を暗黙のうちに教示してくれたこの一年のプレゼントの一冊でもある。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 触発の点景――色と音の意味するもの
- 寺山修司の詩と詞について――未発表作詞八編をめぐって
- 日本歌曲の新しい世紀のために
- 様式美の変革にむかって――現代短歌への提言
- 散文詩志向の背景
- 詩における同人誌の意義
- 同人雑誌の未来――二十一世紀へむけての予感
- 二十一世紀の座の文学小考
- ひびき獲得の闘いを
- 想像のかなたへ
- 帰る空
- 夕暮れ断章
- 中年の成熟――萩原朔太郎論断簡
- 萩原朔太郎と短歌
- 萩原朔太郎と俳句
- 萩原朔太郎の俳句素描
- 萩原朔太郎と与謝蕪村
- 結城昌治と『月に吠える』
- ある夜のこと
- 西條八十と玻璃の世界
- 西條八十と日本詩人クラブ
- 土の匂いの詩人月に吠える福田正夫小論
- 人間回帰――『若葉のうた』小考
- 爽涼の美
- 詩の軌跡の源泉自作詩からの発信
- 詩霊の触発――自作詩の技法を語る
- 連詩とルール
- 詩集贈呈のルール
- あとがきと写真をめぐって
- 時代の魂の伝達者として――詩誌「日本未来派」二〇〇号
Ⅱ
- いじめの良薬
- 絵本のコーナーから
- 消えた洟垂れ
- 象二題
- 情操の助っ人
- 「トカトントン」と「ねむい」
- 鯉のゆくえ
- 無人島の一冊
- 名文の条件
- ツルゲーネフの「散文詩」
- 詩の帰り道――「山下千江詩集」
- 野の詩人への讃歌
- 俳句のなかの詩
- 「青芝」のぬくみ
- 良書悪書
- 「向上」の足跡と共に
- 成熟に向かって
- 舞妓有情
- 雨の舞妓
- ある純愛
- 夢見るマッチ
- あれから
- 転機小話
- あの夕焼けの町
- 疎開っ子
- 吊橋と少年
- 人生と「もし」
- なまえ
- されど犬、されど猫
- 編集長の椅子
- 二十一世紀に言いたいこと
- 浅草断片
- 紅梅の季節に
初出一覧
あとがき