1958年10月、私家版として刊行された矢本貞幹(1909~1990)の詩集。著者は岐阜県生まれ、刊行時の職業は関西学院大学教授、住所は大阪市東住吉区。
四十代も暮色が迫ってから最初の詩集を出すということは、懐旧の感傷か酔興だろう。そうだ、まったく自分のためという外ない。私は過ぎ去った時々、心に触れた風景を振り返つてみたかったのである。
初めて詩を書き出したのは十四、五才と記憶するが、長良川に沿うた奥美濃の田舎町に育った少年はふるさとの自然の風物を描くことに終始していたようだ。二十才前後の頃名古屋で佐藤一英氏のところに出入し、やがて詩友加藤一君らと共に詩誌『海盤車』を発行した。
一九三二年から隔月または季刊で六年近く続いた。当時は『詩と詩論』が詩壇の先端にあつたので、それに関係していた加藤君は、春山、西脇両氏をはじめ十数人の寄稿を得て、われわれの同人誌に活気を与えてくれたが、日華事変が進んだために廃刊した。私もそのうち教師となり、仙台、奈良、大阪など転々としていた。詩は心の支えだったけれども、間歇的にしか書かなくなつてしまった。
こゝには、すでに発表したもの(島城青人の筆名を用いたことがある)や、しないもののうちから季節に関するものを主としてあつめた。一九三〇年代、四〇年代のものが大部分で五〇年代のは数篇にすぎない。今年また大空の下 海にして
泳ぐひとりを ふりかえりみる(「あとがき」より)
目次
- 春雷
- 春の訪れ
- 早春図
- 春近く
- 早春
- 仙台春景
- 春愁賦
- ひばり
- 車窓点景
- 逝く春
- 奈良の晩春
- Ⅰ二月堂
- Ⅱ大仏
- 若葉頌
- 五月の感覚
- 新緑の山
- 緑のメランコリア
- 緑の喪礼
- 六月の心象
- 蔵王、阿武隈附近
- 樹木の心
- およぎ
- 海のうた
- 海のおそれ
- 月夜の空間形式
- 花のうた
- Ⅰあじさい
- Ⅱ桔梗
- わが庭の秋
- 初秋の夕
- 都会の秋
- 秋風頌
- 秋昼
- 琴のうた
- Ⅰすすき
- Ⅱあし
- 初冬
- 冬仕度
- 十二月
- 冬
- 冬の心景
- 閉雅な冬
- 雪の夕暮
- 雪に酔う
- たより
- 雪解け
- 私は知っている
- かもめ
- 冬への訣別
- 冬過ぎ
- 雑編
- 未来
- 私の生活
- ねがい
- 掌
- シューマンの「トロイメライ」に
- ある台湾の曲に
- 中宮寺菩薩思惟像に
- 夜の雨
- Ⅰ
- Ⅱ
- くらやみの対話
- 白骨の会話