2005年7月、詩学社から刊行された坂本つや子(1926~)の第7詩集。著者自装。
刻(とき)を遡って書き継ぐ連作は、自分の消えない影を踏みしめるような心もとない日もあった。バージャー病で左脚膝下十ニセンチで切断、一足先に無縁塚へ。原因不明、治療法なし、毛細血管と血液の難病とか。これを書いている私は片脚になり、車椅子に坐っている。『黄土の風』から読み返す時間があった。実感として、無器用にしか生きられなかった自分に、溜息ひとつ――。
生きていると予想外の出来事にでくわすものだ。今回の脚の切断騒ぎはかなりこたえた。日常の行動がスムースにゆかないもどかしさ。五月のMRIでは、順調に脳は萎縮している。書けなくなることはない由。後、二冊分くらい、書きついでゆくと自分に誓ったところだ。
なぜか吹き止まない風の中、書き出して五冊目がこの『風の大きな耳』だ。えッ?と立ち止まると十五、六年が消えていた。早すぎる。
(「あとがき」より)
目次
- 闇の仕事
- ケロイドの街で
- 出会い
- 黄昏
- ちいさな旅立ち
- 母と娘の殺意
- 広島の眠り
- わたしの部屋
- T君の辞書
- 下宿の隣人
- 来訪者
- 母からの脱出
- 自殺未遂
- まぶしい道
- 風の声
あとがき