1960年9月、思潮社から刊行された中村道夫(1937~)の第1詩集。装幀は冬木卓。新鋭詩人叢書第14。著者は長野県生まれ、刊行時の職業は郵便局員、住所は長野県北佐久郡。
四年ほどまえ、私は詩を書き始めた。もちろん、特別の目的があったわけでもなく、ただ、内から溢れる何かがいっきに詩のようなものを書かせたのであった。意識的に書くようになったのは、自己の「生」をみつめる必要を感じたからである。私はいま、父や母につれられて渡った満州のことを思いだす。それをこの詩集で清算したいと思うのである。
私はひとびとに語りかける。ひとびととは、つまり無力な者のことである。ひとびとが、いつ無力な者でなくなるか、そんなことを考えながら……。
ここに収めた二二篇の作品は、一九六〇年三月までの四年間に書いたものであり、そのほとんどが、すでに「青芽」「新詩人」「東方詩人」「全逓長野詩人」「現代詩手帖」などに発表したものである。そして適宜三部にわけ、だいたい書いた順に並べてみた。
すでに書いてしまったものについて、私はあまり触れたくない気がするが、その責任というものをひしひしと感ずる。これからさらに書きつづけるということは、非常に苦しいことになるかもしれない。
(「あとがき」より)
目次
序 高橋玄一郎
Ⅰ
- 風景1
- 風景 2
- 恋唄
- 成長
- ひとびと
- うしなう
Ⅱ
- 樹
- 父に
- 母
- 満州っ子
- 神
- 神話
- 傷跡のイメージ
- ただひとつ
Ⅲ
- 生きたネズミ
- メガネ
- 約束
- ささやかな定食
- 海
- 島
- 女
- 牛
あとがき