濁水 玉貫寛

 1983年2月、福武書店から刊行された玉貫寛(1916~1985)の短編小説集。

 

 一年三ヵ月前の、昭和五十六年十月に、わたしのはじめての小説集「潮の道草」が、福武書店から出て、版を重ねた。内容が性を中心に老人の平凡な生活のありようを書いたものだっただけに、読者層の年齢の高かったことは当然として、作者のわたしは、そのことを大きな喜びとした。
 隠しだてをせずに老人の実態を理解してもらえるように語れば、老人は性から離れてますます孤高であるべきだと思いこんでいる人達も、その考えが生きている人間にとっていかに不当かが分かって、考えなおしてくれるだろう。そうしたら、老人自身も、己をも欺いて性のあることを恥じる、などということがなくなるだろう。そうなると、陰にこもった性への執着や倒錯もすくなくなるだろう。また、性が、老人の生きる力をいや増すだろう。そんな考えが「潮の道草」を書いた原動力だった。いってしまえば、いわば極めて陳腐なことなのだが、それにもかかわらず、さいわい反響は予想外に大きく、楽しかった、うれしくなった、勇気がわいた、などという読後感が寄せられた。
 それに勇気を得て、書き継いだが、書き継ぐとなると、いつも念頭を離れない死のことについても語らずにおれないことになった。それがすこし顔を出しているのが、この小説集「濁水」である。
 女の人達からも、手紙が送られてきたし、噂も耳にした。男の人の性がこんなだったとは知らなかった、やっと分かった、という声も耳に残っている。「潮の道草」は、そういう効果も果たしたらしい。この「濁水」では、女の人達は、どういってくれるだろう。不安と期待がある。
(「あとがき」より)


目次

  • 二つの庭
  • 濁水(じょくしい)

あとがき


NDLで検索
Amazonで検索
日本の古本屋で検索
Yahoo!オークションで検索
メルカリで検索