1996年6月、思潮社から刊行された鈴木有美子(1961~)の第2詩集。カバー写真は田沼靖一。第7回日本詩人クラブ新人賞受賞作品。
死ぬ間際のひとの看病をしたことがある。
もう十年以上も前のことだが、長いこと床に伏せっていた祖父を、母や祖母と一緒に看病していた。一年以上寝たきりだった祖父は、とてもほそい四肢ととてもかわいた皮膚をしていた。特に、もう何かを踏むことのなくなった足は、皮膚も爪も区別がつかないくらい硬化して、血が通っていないみたいに冷たかった。祖父が息をひきとるよりもずっと前に、つま先の皮膚は死んでいたのである。
祖父に靴下をはかせる度に、死とはある瞬間に訪れるものではなく、とてもゆるやかに進行し、生とパラレルに存在するものだと思い知らされた。
細胞レベルでは、しかしそれは特に珍しいことではないという。老化した細胞や機能しなくなった細胞たちの死と再生は、生きている個体の中で絶えず繰り返されている。
生と死の境界はとても曖昧なものだ。そして個人という輪郭も。わたしたちは、わたしという個人を生きているつもりでも、実は、ひとの生をかすめとったり、だれかの生を重ね合わせたりしながら生きている。
(「あとがき」より)
目次
- めざめ
- Isn't she disarming?
- 夜
- 密やかな悦びを知るへびは夕暮れとともに目覚める
- 追悼
- 水路
- 窓
- 男たちの長い夜の会議
- 雪の記憶
- Terre
- 満月
- My Name is Blue
- スズキユミコ
- 橋をおとす
- エアメール
- 水の男
- 細胞律
あとがき