1995年7月、短歌研究社から刊行された栗木京子(1954~)の第5歌集。カバー装画は古賀春江「煙火」(川端康成記念会蔵)。装幀は猪瀬悦見。塔21世紀叢書、第38篇。第55回読売文学賞詩歌俳句賞、第8回若山牧水賞受賞作品。
本集は私の五冊目の歌集です。一九九九年夏から二〇〇三年春までの作品四百五十首をほぼ編年順に収めました。
二〇〇一年七月号から二年間、八回にわたって「短歌研究」誌上に連載した作品を中心にして構成しました。この間、幸せなことに、連載第二回目の「北限」一連によって短歌研究賞を受賞することができました。「曲線」は受賞後第一回作品です。
作品連載の機会を与えていただけたのはとても恵まれたことでしたが、これまでのんびりと歌を詠んできた私には”三ヶ月ごとに新作三十首”というペースはかな苦しいものでした。他の締切と重なったときなどは、焦りでまさに目の前がまっくらになるような気分でした。こんなに追い詰められた心境になったのは、作歌をはじめてから三十年間の中で初めてのことです。ただ、表現と格闘しながら一首一首を絞り出してゆく過程で、作歌が自分にとっていかにかけがえのないことかに気付いたのも、また初めての体験でした。短歌と向き合うことの厳しさと至福とをともどもに味わうことができたと思っています。
歌集名の『夏のうしろ』は、文字通り夏という季節のうしろであると同時に、青春のうしろ、繁栄のうしろ、戦いのうしろ、二十世紀のうしろでもあります。一つの現象が終わったあと、その次にやってくる新しさにすぐに目を向けがちですが、新しさを追う前に今しばし立ちどまって「うしろ」を丁寧に見つめてみることも大切なのではなかろうか。そんな思いを込めて歌集名としました。
(「あとがき」より)
目次
- 試し刷り
- 普段着
- 秋の舟
- 茸の秋は
- 舟遊び
- カスタネット
- 六月まひる
- 白百合の平熱お手紙
- ヒトツバタゴ
- 北限
- 前に出ず
- 秋の日乗
- ハモニカ
- 虹の七色
- 誤訳
- のりしろ
- 島国の朝
- 室内楽
- 昭和は遠く
- 曲線
- レモン
- 南方郵便機
- 夏のうしろ
- 釘の痛み
- 絵馬
- 欲望にこそ
- 黄水仙
- 二〇〇三年の桜
あとがき