2020年9月11日、幻戯書房から刊行された小池昌代(1959~)の短編小説集。カバーは水野里奈。
本書には、七つの短篇をおさめた。冒頭の一篇「がらがら、かきがら」は、本書のために書いた。牡購の季節は終わりかけていたが、わたしはこれが最後かと思いながら牡螺フライをつくり、同じとき、新型コロナウィルスが、世界中を静かに侵し始めていた。わたしは、店頭にあれば牡蝋を買い、再びこれが最後かと思って牡螺フラィをつくり、深海魚のようなきもちで、一人、短篇を書きながら、耳の奥に、「がらがら」という音を聞いた。牡嘱殻と牡螺殻とが、ぶつかる音だ。空白を押しつぶす、崩壊の音。しかし妙に、力の湧き出る音である。
「がらがら、かきがら」以外の六篇は、さまざまな場所 に、ばらばらに書いた。一冊にまとめる途上で、それぞれが枝葉を伸ばし、互いが互いと、つながろうとしているように見えた。そこで、別々の鉢に植えられていた植物の、鉢を破壊し、同じ庭に地植えしてみる、ということをした。
それにより、各篇には少なくない修正を施すことになった。ここに描かれた「場所」は、かつてわたしが歩いたことのある土地のようにも思える。だが、ここに描かれている「時間」については、よくわからない。少し先の未来のようで、すでに経験した過去のようでもある。今迫る危機、これから来る災害。事故、事件。すべて、我が事だ。鬱々としてくるが、鬱のなかによじれた、塩辛い荒縄のような希望が、わたしのなかにはまだ残っていた。(「あとがき」より)
目次
- がらがら、かきがら
- ぶつひと、ついにぶたにならず
- 地面の下を深く流れる川
- ブエノスアイレス の洗濯屋
- 聖毛女
- 古代海岸
- 匙の島
あとがき
書評等