小さい時間(復刻版) 酒井正平詩集

f:id:bookface:20211011094105j:plain

 2013年9月、水平書館から復刻された酒井正平(1912~1944)の遺稿詩集。装画は朴大順。元版は1953年10月発行私家版。元版にあった村野四郎の序文はなし。

 

 酒井君と最後に逢つたのは、酒井君が入隊して外地へ立つといふ日。昭和十七年の夏だった。それからはほとんど便りがなく、空襲か激しくなつてから、一度焼跡を訪ねてみたが、立退き先はわからなかった。戦争がすんでから、友人の誰も彼の消息を聞かなかつたし、何の便りもなかつたので、おそらく戦死したものと思つてゐた。
 このやうな異常なことを、ありふれたことのやうにすましてゐた十一年間がたつて、今年の春、家族の人が本屋の店先きで偶然手にした詩集から、村野氏の住所を知り、僕もやつと彼の最後の消息を聞くことができた。作品は幸い家族の人が保存してゐた。
 この詩集は最初に詩学(ボン書店刊行)、マダム・ブラシシュ時代のリリックなもの、つぎに廿世紀、新領土時代のダダ的傾向をもつたシュル・リアリズムの作品を収め、最後に戦地から送られた私信のなかから、はつきり作品としてまとめたと思はれるものを加ヘた。
 僕らが執拗に追いかけた円や三角形や曲線の習作を、これから組みたてようといふ時、戦争のためたちきられてしまったことは残念でならない。そして同時代の詩人、しかもながい聞詩について語りあった友人を、段々失つて、若いころ抱きしめてゐたエスプリといふものの、成長してゆく過程を見られずにしまつたことは大きな損失にちがいない。せめてこの遺稿集を、つつしんで故人にささげたい。
(「後記/小林善雄」より)

 


目次

著者略歴

・窓

  • お毋さまの椅子について
  • 病状
  • 航海癖
  • 利潤癖
  • お答へ申しますなら
  • スミレの咲く丘で

・技術考

  • ああ
  • 技術考
  • 小さい時間
  • ポワン雑記
  • 三つのピンの物語

・戰地から

 

後記 小林善雄


NDLで検索
Amazonで検索
日本の古本屋で検索
ヤフオクで検索