断崖 大谷藤子

f:id:bookface:20171001221658j:plainf:id:bookface:20171001221713j:plain

 1960年6月、雪華社から刊行された大谷藤子(1903~1977)の長編小説。装幀は本郷新(1905~1980)。

 

 岩本常雄氏にめぐりあえたことを私は感謝している。これは私の初めての書きおろし長篇小説で、ひとえに岩本氏のおかげで書きあげることが出来たのである。
 こう書けばかんたんなようだが、事実は決してそんなかんたんなものではない。決して、決してと幾度くりかえしても意に充たぬほどである。私はこれまで、まとめて三百枚書いたことがないどころか、百枚をこえた小説を一度に書きあげたことがない。遅筆で寡作で、しかも、このごろはほとんど作品を発表していない。その私に、書きおろしの長篇小説を書くようにと岩本氏はすすめて下さった。
 岩本氏の言われるには、私は読者うけのする作品は書けないのだから、それならそれに徹して自分の場で書くように、私の本がたいして売れるなどと思っていない。中途半端な態度でなく、徹することだ。その岩本氏の言葉は私をゆすぶり、得心がいって、もしも本にならないとしても私は岩本氏のために書こうと思うようになった。
 ところが仕事がはじまると、岩本氏の催促は厳重をきわめ、私の遅筆ぶりをもどかしがって、烈しい人になった。こわい人になった。
(「あとがき」より)


NDLで検索する
Amazonで検索する
日本の古本屋で検索する
ヤフオクで検索する