1962年12月、思潮社から刊行された高良留美子(1932~)の第2詩集。装幀は粟津潔。第13回H氏賞受賞作品。
これらの詩、ことに最近二、三年のあいだに書いた詩に、直接的な感動を求めるひとは、あるいは失望するかもしれない。自分が物になる危険をおかして、物と自分とが入れ替る瞬間、対象が物になり、物がイメージになる瞬間をとらえようとしたこれらの試みは、この現実と、現代の詩に固有の課題がわたしに課した危険な試みであり、その現在までの成果が、その困難さとわたし自身の限界によってまだかなり不充分なものであるにせよ、わたしは自分が選んだこれらの賭けについて、少しも譲歩しようとは思わない。それはわれわれをとりまく現代のものと人間との関係のなかで、物への根源的な自由をとり戻そうとする試み、言いかえれば象徴主義・シュールレアリスム以後の詩の可能性の一方向を探るひとつの試みでもあった。わたしはその過程で、この試みにともなうある種のわな――擬唯物論的な態度や観念と物との決定的な入れ替えの可能性などと、たたかわなければならなかった。
いまこれらの詩をみると、わたしは物について書いていたというより、物にかこまれた意識について、あるいはまた詩についての詩を書いていた場合もあったようだ。しかしわたしがこの時代の宿命と詩を選ぶ以上、この試みをさらに展開していくことが、わたしのこれからの仕事になるだろう。
(「あとがき」より)
目次
- 場所
- ベルト
- 部屋
- 部屋
- 塀
- 宝石売場
- 道の終りまでくるとき
- 夕暮れの行進
- 月と三人の男たち
- 大きな手
- ある反省
- 最後の樹葉
- 会合
- 涙のように
- 舗石
- 鉄蓋
- ビルの冬
- 夜・駅頭
- 声
- お話
- 海の装置
- 城塞
あとがき