
1960年8月、青衣社(糸屋鎌吉)から刊行された高橋渡の詩集。青衣叢書。装画は田原利一。
この詩集に「あとがき」を書くべき、なにもない。それほど自分を語り尽してしまった。それでいいのだ、と気楽に思う。それにしてもこの詩集には、晩夏にモティーフを覚めたものが多すぎて気懸りになる。が、これはある意味でしかたないことと思つている。学生時代――それはもう十数年の遠いこととなるが、能登での鮮かなまでに心にそのいざなう夏と秋のあわいに転位していく風物の急ぐ姿を発見した日が、戦中戦後の遍歴の中にあつて生き続けていることにもよるからだ。
いま、あとがきを書くにつけ、<青衣>の仲間の己に厳しい友情を、忘れまいと思う。就中、西垣さんの心こもった序文、私はこのお心に報いるためにも、考えるものの要ることを知っている。そして、師友の信愛のためにも。さらにまた、アルプス山麓の村で烏滸な子に心、労するばかりの老母のためにも。
(「あとがき」より)
目次
序 西垣脩
- 出発
- 草食動物
- 八月の哀歌
- スワンに
- 耳の慕情
- 雲
- 挽歌
- 捨てる
- 京都で
- 夏日悲傷
- 騒
- 桔梗
- 晩夏
- 人よ
- 近況
- 愛について
- 風景
- ひたき
- ぼくは見た
- 還る目
- 乾いた蝶と
- ドン・キホーテ
- 花苗を添えて
- あざらしに寄せて
- 花芯は……
あとがき