1975年12月、詩学社から刊行された大橋千晶の第1詩集。装幀は十川雅典。
この詩集は およそ一九六九年より現在にいたるまでの作品から選びました。最後の二篇は 詩を書きはじめた頃 詩誌ロシナンテに発表したものです。
一九五九年にロシナンテは廃刊になり その頃から十年間ほど 私は詩を書きませんでした。そして十年ののちに また少しずつ詩を書きはじめました。
この未熟な私の詩集に跋文を書いて下さいました石原吉郎先生 詩集出版に際して お世話になりました詩学社の嵯峨信之先生に 深くお礼を申しあげます。(「あとがき」より)
ま夜ふかく時刻(とき)はたがへず地の底へ降(お)りゆく跫音(あおと)いそがざるかも
大橋千晶の詩に真正面から出会ったと私が思ったのは、廃刊直前の詩誌「ロシナンテ」に掲載された「寒い夜に」においてであった。この詩が書かれた時期、彼女はおそらく詩と現実の奇妙な混在の場、生と事実との関わりのさいごの場にあったのではないかと想像するが、この混在の場で彼女をはっきりと支えていた意志的な向日性、生命そのものへの快活な信頼に感動した時から、やがて生命の揺曳の場、病いとしての詩が始まる場へたどりつくまでに、どれほどの黄昏を、詩人はくぐらねばならなかったろう。
今あらためで彼女の作品を読み終えて、「通過」または「下降」という志向が、彼女の詩へのいとなみにとってどれほど重い契機であったかに、いまさらのように気づかせられる。
(「ゆるやかな下降へ向けて/石原吉郎」より)
目次
- たずねるⅠ
- あかり
- 呼ぶ
- 飛翔
- 河原
- 杙
- かたち
- 病気の女に
- 鳥
- 甕または病気について
- たずねるⅡ
- 沈んでいく
- 音楽
- 消息
- やみ
- 揺曳
- 祈り
- 眠り
- 小さな幽れい
- L
- そのおと
- きのうあなたは
- その街
- 白昼
- 花は
- 耳
- その方へ
- たずねるⅢ
- 河Ⅰ
- 河Ⅱ
- 椅子
- 樹
- 寒い夜に
ゆるやかな下降へ向けて 石原吉郎