1976年1月、思潮社から発行された鈴木志郎康(1935~)の第8詩集。
ここに集めた詩は一九七四年三月から今年の八月までの間に書かれたもので、そのうち三篇以外すべて発表された。一年半の間に四十篇余りの詩を書いたことになる。日常のこまかなことを詩の素材にしているわけであるからもっと書けてもよさそうなものなのになかなか書けない。やはり何かしら、詩を書くということの、ぴんと張られた糸の上に乗らないものは詩にならないということがわかって来た。そうすると、その糸の上に乗りそうなものを探すようになってしまうのである。言葉の惰性に負けて来てしまうことになるのだ。私はこれらの詩を書きながら、私自身の生活の現実から離れた、まるで生活している私が書いたとは思えないような詩を書きたいと思い続けていた。もっと平明に、もっと単純にならないものかと思ったが、どうしてもそうはなり切れなかった。それは多分物事を感受するとき、生活意識と現実に向う批判との半ばなところに詩を書くということを置いているからではないかと思えたのであった。そうして、詩を書くということを更に意識したいというところで区切りにしたのである。
(「あとがき」より)
目次
- やわらかい夢
- 湯あがりの血めぐり
- 見知っているから
- 自分の姿
- 鈴の音
- にぎらせられる
- 二本足
- いきんでいる
- 空漠と
- 手と手と
- 不愉快な奴がいる
- 筋肉反射
- 重量の印象
- 電話ボックス
- 乳をのませる麻里
- 暗い川面
- 電話の声
- 地方の街で
- 部屋の中で その一
- 部屋の中で その二
- ホテルで
- 灯火点在
- 糸が乱れる
- 眼球論
- 二つの球体
- 車中の苦痛
- 泪の出る夜
- 夢の無音
- 深い忘却
- エスカレーターの夢
- 寒い夢
- チョン髷男と子供
- 地震のあった日
- 待っている存在
- 四月の風
- 車内の恐怖
- 見えない隣人
- ねじり曲げてる首
- 屋根を見ていた
- つる草の緑色
- 名も知らぬ町の姿