矢内原伊作詩集 1941~1989 矢内原伊作

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 1994年4月、思潮社から刊行された矢内原伊作(1918~1989)の詩集。装幀は菊地信義。付録栞は、串田孫一「後悔頻り――矢内原伊作と『冬夏』、宇佐見英治「遊びに来るのは」、池崇一「基層のポエジー」。

 

 矢内原伊作が生前に出版した詩集は、私家版の『矢内原伊作詩集』一冊である。これは菊半載判、全六十一頁の小さな本で、発行所は編集工房水族館、奥付によれば発行年月日は一九八五年四月一日、魚影叢書中の一冊とされている。串田孫一の装釘によるこの瀟洒な詩集は、限定一九九部の非売品であり、身近な友人にのみ配られたため、一般の眼に触れることはなかった。
 しかし、矢内原は晩年にいたるまで何度か全作品を収録した詩集を編むことを計画しており、折にふれて書いた作品をクロス装A4版のマルマン製のスクラップブックに整理していた。扉に黒のボールペンで「矢内原伊作詩集」と記された三十三葉からなるこの帳面には、それまで雑誌などに発表された作品のコピーが貼付されており、著者自身が目次をつけている。この目次を見ると矢内原が訳詩集や散文も含めての詩集を構想していたことが分かる。『同時代』誌に発表された「雑文」、「SOURIRE NOIR」やリルケのフランス語詩「窓」なども記されているからである。
 水族館版では主に発表された同人誌の誌名を用いて、「冬夏抄」、「アルビレオ抄」、「同時代抄」と名付けられた三部からなり四十篇が収録されているのに対し、スクラップ版では章構成は曖昧で、「冬夏集」、「アルビレオ抄」の他は、「天使抄」、「リョウブ抄」という連作はあるが、新たに書かれたものが漸次付加されているので、目次と内容の間に異同があり、目次には書かれているリルケの訳詩は本文にはみられない。
 遺稿として残されているもので決定稿と見做し得るものは十五、六篇である。これらは四百字詰め原稿用紙に黒インクで書かれており、制作年代に関しては俄には定め難いが、戦前の作品は旧漢字旧かなづかい、戦後改革以降のものはそれにしたがっているので大まかな時代は分かる。
 本詩集では作品をほぼ年代順に配列し、「冬夏」、「海について挽歌」、「天使抄その他」、「花と風景自画自賛」と題した四章に分けた。
(「解題」より) 

 
目次

・冬夏 1941

  • 奔馬
  • 冬夏Ⅰ
  • 冬夏Ⅱ
  • 兵士Ⅰ
  • 兵士Ⅱ
  • 地下鉄
  • 落日
  • 斜影
  • 裸木
  • (産院のおもしろさ……)
  • (思想の破片の……)
  • 掃宅
  • 頭痛
  • (混んでいる電車……)
  • 樹と風と
  • 岩の精神
  • 思ひ出
  • 晦日

・海について 挽歌 1951~59

  • (海は揺れ……)
  • (海はひねもす揺れている……)
  • 挽歌――海に死せる者のために
  • 暗い海
  • 小さな墓Ⅰ
  • 少さな墓Ⅱ
  • かくれんぼⅠ
  • かくれんぼⅡ
  • 少女に
  • 桜散る
  • (清子は五歳……)
  • 勲章
  • 風と樹の歌
  •  Ⅰ風は歌った……
  •  Ⅱ樹は歌った……
  •  Ⅲ風は歌った……
  •  Ⅳ樹は歌った……

・天使抄 その他

  • 黒い顔の天使
  • 小さな天使たち
  • 青い闇
  • 夕焼け
  • 竜馬に寄す
  • ワガ装備
  • 秋の歌
  • ジャコメッティの彫像『腕のない細い女』に寄せて
  • (思想は花火のごとく……)
  • (明るい春の空に……)

・花と風景 自画自賛

  • 山中湖畔――忍野方面を見る
  • 山中湖――夏の終り
  • 鎌倉滑川風景
  • はまなす
  • くちなし
  • りんどう
  • ふしぐろせんのう――挨拶
  • 祝婚歌
  • リョウブの一日
  • リョウブの秋
  • リョウブの花
  • 木蓮
  • 半夏生
  • とりかぶと

解題
解説 矢内原伊作――詩と哲学と(澤田直


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