1975年4月、朔人社から刊行された小沢信男(1927~)の第1詩集。
年少のころ、私は詩人でありたいと思いつめていた。すると天の感ずるところにや、詩が毎日のように湧いてきて、私はそれをノートに書きとめればよいのだった。やがては一冊の詩集が編めるだろう。そうすれば死ぬにもいくらか死にやすい気持だった。
それが、そうはならなかった。私は胸の手術をして健康をとりもどし、そのころから詩が遠ざかって、散文がやってきた。そのまま碌碌としてこんにちに至るのだが。しかし長生きはするものだな。このほど、天に代って菅原克巳氏の感ずるところとなり、詩集を出さぬかと誘ってくださったのだ。
これこそ少年のときからの夢であった。夢みたいな気持だ。やはり夢ではあるまいか。だからこの薄い詩集は、できたあとでも油断がならない。一夜あければ書架から消えているかもしれない。
収めるものは主に二十代なかばの作品であり、それに近年、四十代なかばになってまた書きだした数篇が加えてある。若いころの詩篇は感傷過多がみるにみかねて、多少、あるいは大幅に書きなおした。もともと進歩がないうえに、そうしたものだから、だいたい稚拙に統一されたとかんがえる。
この詩集をだすことは、あの貧弱な青春を、いまさらなぞるようなものだ。そのことにどれほどの意味があるやら。貧弱ななかに豊満への渇きがうかがえれば望外であるのだが。
すくなくも私にとっては思いがけない幸福である。菅原氏をはじめ、版元の高頭祥八氏、跋を書いてくださった長谷川四郎氏、そして本書をたまたま買ってくださるご奇特な読者各位の、多くのご厚意にめぐまれて、私は今後ともぬけぬけと生きてゆきたい。そしてこの第一詩集を、亡師丸山薫氏に献じたい。
(「あとがき」より)
目次
・旅中偶作
- 夕日の波止場で
- 噴水の広場で
- 丘のある街で
- 白夜の海で
・これでも相聞歌
- 男女同権について 1・2
- 皓歯曰く
- だくだく
・いまは昔のうた
- 銀座四丁目午前十二時
- 浅草六区午後十時
- 街のこだま 1・2・3・4
- 朝靄の街
- よそゆきになった友達
- 砂山のこいびと
・長崎遍路調
- 浦上天主堂跡
- 十人町界隈
- 出島岸壁にて
・お別れのソネット
- Ⅰ
- Ⅱ
- Ⅲ
- Ⅳ
- Ⅴ
・終りに、または始めに
- 赤面申告
- 旗について
赤面後記 長谷川四郎
あとがき
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